皇室典範改正をめぐる議論が大きな注目を集めています。
衆参両院の正副議長による取りまとめ案が政府側に手渡され、与党は今国会中の法整備も視野に入れているとされています。しかし、その中核となる「旧宮家の男系男子による養子縁組案」をめぐり、当事者から予想外ともいえる発言が飛び出しました。
旧宮家の一つである久邇家の三男として生まれた久邇朝宏氏が、複数のメディア取材に対して「今さら皇族に戻るのは無理」と率直な見解を示したのです。
今回の発言は、皇室典範改正の議論にどのような影響を与えるのでしょうか。
旧宮家当事者が語った「皇族復帰は無理」の理由
久邇朝宏氏は現在81歳。
久邇家が皇籍離脱したのは1947年で、朝宏氏は当時3歳でした。物心がつく前に一般国民となったため、本人も「宮家だったという実感はほとんどなかった」と語っています。
そのため、旧宮家出身者を皇族の養子として皇室に復帰させる案についても極めて慎重な考えを示しました。
取材では、
「小さい頃から教育を受けていない」
「今さら戻れと言われても相当無理な話」
と発言。
さらに、
「特別な教育を受けても、自分を皇族として適応させ、日本国民のために動くことは難しい」
とも語っています。
これは単なる個人の感想ではありません。
実際に制度の対象とされる立場の人物が、皇族としての役割の重さや特殊性を認めたうえで、突然その立場に就くことへの難しさを率直に語ったことになります。
養子案は本当に機能するのか
現在の議論では、旧宮家の男系男子が皇族の養子となり皇室に復帰する案が柱の一つとなっています。
しかし課題は少なくありません。
そもそも対象とされる旧宮家の男系男子は約10人程度とされていますが、本人たちが本当に皇族復帰を望んでいるのかについて、政府や宮内庁も十分把握しているとは言えません。
また、
* 養子となる年齢
* 誰が養親となるのか
* 皇族としての教育をどう行うのか
* 社会的地位や職業をどう整理するのか
など、制度設計の詳細はほとんど示されていません。
さらに憲法14条との関係も指摘されています。
生まれた時から一般国民として暮らしてきた人を、血統のみを理由に特別な身分へ移行させることについては、「門地による差別」との整合性をどう説明するのかという問題も残されています。
「前例がない」という指摘も
国会では養子案をめぐり、「伝統」を根拠とする説明への疑問も出ています。
木原官房長官は衆院内閣委員会で、
「非皇族として生まれた方が皇族の養子となり皇族になった例はない」
と答弁しました。
宮内庁も同様に、そのような前例は確認できないと説明しています。
つまり、現在検討されている養子復帰案は、歴史的前例が確認されていない制度ということになります。
そのため国会では、
「伝統を守るためと言いながら、実は新しい制度ではないか」
との指摘も出ています。
女性皇族の身分保持案は前進する一方で課題も
一方で、女性皇族が結婚後も皇族の身分を維持する案については、多くの政党が一定の理解を示しています。
しかしこちらも問題が残されています。
最大の論点は、
* 配偶者を皇族とするのか
* 子どもを皇族とするのか
という部分です。
現時点では曖昧なままの整理が続いています。
仮に配偶者と子どもが一般国民のままとなれば、
* 選挙権を持つ家族が皇室と共存する
* 皇室の政治的中立性への影響
* 住居や警備費の負担
* 皇族費との関係
など新たな課題が生じます。
制度成立後にさらに大きな議論が起こる可能性も指摘されています。
なぜ「皇族数確保」と「皇位継承」が分けて議論されているのか
今回の議論で最も重要なポイントはここかもしれません。
政府は一貫して、
「皇族数の確保」
と
「皇位継承のあり方」
を分けて議論しています。
背景には2022年の有識者会議報告書があります。
報告書では、
「次世代の皇位継承者がいらっしゃる中での大きな仕組みの変更は慎重であるべき」
との考え方が示されました。
結果として、
* 悠仁親王殿下までの継承順位は維持
* まず皇族数確保を優先
* 女性天皇・女系天皇の議論は先送り
という現在の流れが形成されたとみられています。
愛子天皇支持とのズレは広がるのか
一方で世論調査では、女性天皇を容認する意見が多数を占める傾向が続いています。
多くの国民が「愛子内親王殿下が将来天皇になる可能性」を念頭に置いて回答しているとの分析もあります。
興味深いのは、今回インタビューを受けた久邇朝宏氏自身も、
「愛子さまが結婚されて子どもが生まれ、その子が天皇になることも認めるべきではないか」
との趣旨の考えを示している点です。
制度の対象とされる立場の人物が、女系天皇容認論に理解を示したことは大きな注目を集めています。
天皇陛下が語られた「国民の理解」
6月11日の記者会見で、天皇陛下は皇族数確保の議論について、
「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望みます」
と述べられました。
また秋篠宮皇嗣殿下も過去に、
「制度の対象となるのは生身の人間である」
という趣旨の発言をされています。
制度論だけではなく、
* 実際に誰が対象になるのか
* 本人の意思はどうなのか
* 国民が理解し納得できるのか
という視点が重要であることを改めて示した形です。
まとめ
皇室典範改正をめぐる議論は、いよいよ大きな局面を迎えています。
しかし今回、旧宮家当事者である久邇朝宏氏が「皇族に戻るのは無理」と語ったことで、養子復帰案の現実性には改めて疑問符が付くことになりました。
一方で女性皇族の身分保持や女性天皇・女系天皇をめぐる議論は依然として先送りされています。
政府はまず皇族数確保を優先する姿勢ですが、国民世論との距離や制度設計上の課題は決して小さくありません。
今後の皇室制度を考えるうえで重要なのは、伝統論や制度論だけではなく、実際にその制度の中で生きる人々と国民の理解をどう両立させるのかという視点なのかもしれません。

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